2017/07/01

変わる墓地と建築設計

 日本の国土は変わりませんが、墓地は拡張の一途を辿っております。全国にある墓地の面積は、東京都と同じくらいの広大なものと言われています。一方、核家族化が進んだためか、墓参のいない荒れ果てたお墓が全国で散見されるようになり、大きな社会問題ともなっています。

 そんな中、日経電子版(NIKKEI STYLE)に、「散骨への高まる認知度、薄れる抵抗感」というタイトルで、次のような記事が掲載されていました。

 「墓地埋葬等に関する住民の意識調査」(厚生労働科学特別研究事業)によれば、散骨の認知度について、全体の9割近くが知っているという結果になった。また、楽天リサーチが20~60代の男女1000人に、自身の埋葬方法の希望を聞いたところ、散骨は16.6%と、「先祖代々のお墓」(29.5%)に次いで多く、「自分や家族らが新しく用意するお墓」や「永代供養墓」を上回った。」

 この記事を読んで、散骨希望者でもある私にとっても、期待の膨らむ思いですが、散骨は、現時点においては、刑法上の「遺骨遺棄」などの法的な整理や、信頼できる散骨事業者の育成、粉骨の方法、散骨可能な場所(海・川・山など)あるいは禁止場所の指定、散骨を禁止している一部自治体における条例改正など、まだ数多くの課題を抱えています。これらに対して、国・自治体・事業者・国民が一体となって取り組んで行く必要があると思っています。

 また、日経ビジネスには、「JR新宿駅から電車に揺られて1時間。横浜線片倉駅に降り立って、多摩丘陵の森の中を10分ほど歩くと、視界が急に開ける。「風の丘 樹木葬墓地」。これまで全く見たことがない墓地の姿が、視線の先にあった。」という記事が掲載されていました。

 この芝生と池に覆われた公園のようなお墓は、墓石は一つもないそうです。骨壷が眠るのは芝生の下で、35cm角の区画が割り当てられ、その個別区画に骨壷を埋葬する仕組みだそうです。この芝生の丘が、一つの大きな墓というわけです。芝生の下に骨壷を埋葬する期間は13年か33年で、先祖代々の墓のように骨壷が半永久的に残るのではなく、期間が来たら、その区画から骨壷を取り出し、芝生の別のエリアに設けた合葬墓に移して安置するそうです。

 新しいのは空間だけではなく、この墓地では、水盤を設けた献花台に、花弁だけを切り取って浮かべるのがこの墓地の献花の仕組みだそうです。浮かべた花弁を前に手を合わせ、丘全体にお参りをするという、これまでとは全く異なった斬新な墓地の姿が想像できます。

 この墓地の設計者は一級建築士の女性だそうです。彼女はこれまでにもいくつもの墓地のプロジェクトを手掛けており、そのほとんどにおいて、これまでと比べ物にならないほど人気が高いそうです。建築家が墓地の設計をするなど、これまでの常識では考えられませんでしたが、そこに彼女なりの活路を見出したのではないかという気がします。

 何故、活路かというと、現在の日本の建築設計業界は、バブル期までのように建築デザインが優先された時代は終わり、容積率を緩和された大規模な超高層ビルが中心で、それをこなせる大手建築事務所とスーパーゼネコンに仕事が集中する構造となっています。アトリエ派と言われた建築家たちがデザインを競ったのはひと昔前のことで、今ではほとんど見られなくなりました。彼女が、墓地設計に建築家としての感性を投じたのは、そんな時代背景もあり、そこに活路を見出したのではないかという気がするからです。

 しかし、アトリエ派の建築士たちが活躍していた時代を活きてきた私としては、一抹の淋しさを覚えます。将来、建築界のノーベル賞とも言われる「プリツカー賞」に選ばれるような日本人建築家は、残念ながら、もう出ないかも?

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