2016/04/16

保育園開園「断念」に思うこと

<保育園開園「断念」で波紋>
 千葉県市川市の保育園開園「断念」をめぐって波紋が広がっています。住民側が、「子どもの声がうるさい」、「道が狭い」、「説明がない」などを理由に、反対運動を繰り広げた結果、保育園側は、安心して保育ができないとして開園を「断念」しました。

 「住民のエゴだ」という人も居れば、「同情的」な人も居ます。折しも、「保育園落ちた日本死ね」で一気にクローズアップされた待機児童問題は、日本全国で約6万人居ると言われており、国民の一大関心事になっています。

 この待機児童問題は、専門家をはじめ多くの人が、SNS等でいろいろな意見を発信していますのでお任せするとして、私は、建築士の視点からこの問題を考えてみました。

<耐えることは美徳>
 私が育った戦後の日本は、貧しさから抜け出すため、多くの国民が朝早くから夜遅くまで休みなく働き、しかしながら、所得はどんどん増えて行ったので、どんなことでも我慢をし耐えていた時代であったと思います。いや、昔から日本人は、「耐えることは美徳」と教えられていたからかも知れません。

<脱エコノミックアニマル>
 とにかく、狭いウサギ小屋で暮らし、プライバシーもなく、外では排気ガスにさらされ、満員電車もなんのそのの生活がずっと続きました。ある部分では今でも続いていますが・・・。しかし、高度成長期が過ぎ、バブルが弾けて、やっと、日本人も欧米人並みに生活の質を求めるようになってきました。エコノミックアニマルが、人間らしい生活に目覚めたのだと思います。

<無秩序で過密な都市空間>
 しかし、国(官僚・政治家)は、公害問題などのように人命が失われない限り積極的な施策は講じて来ませんでした。人命の係わらない「土地利用計画・都市計画・建築基準法」などでは、ほとんど国民(地主)との軋轢を避けてきました。その結果、都市においては、宅地がどんどん細かく分割され、20坪にも満たない狭小敷地を創り出し、一方、固定資産税が相当に増額される再開発事業などでは、容積率(床面積)を大幅に緩和して多額の補助金を交付し、大手不動産会社の超高層ビル建築を支援しています。

 住宅地では、行き止まりの私道(4m)に接して、軒が連なるように3階建て住宅が所狭しと建てられ、都心では、超高層ビルが無秩序に乱立し、その足元では、昔ながらの古い木造家屋が密集しているというあり様です。

 外国人観光客が東京に来て先ず驚くのは、路地が多く、道は狭く曲がりくねっていて、様々な形・色・高さの建物が無秩序に混在していることだそうです。旅行のパンフレットに写っている東京は、きれいなビルで溢れたすてきな街だそうですが、実際に来てみると、全く違っているようです。これがアジアンテイスト、異国情緒と感じているのかも知れませんが、決して、住みたい街、あこがれの街ではないようです。現在は、円安と中国経済のおかげで外国人観光客が増えつづけていますが、この先、どうなるかは疑問です?

<国の不作為が原因>
 話が少しずれましたので元に戻しますと、昭和の時代であれば、「子供の声くらい我慢するのはあたりまえ」となるのでしょうが、良質な生活を求める人が増えてきた現在では、保育園に反対の住人に対して、「エゴ」とは言えないと思います。要は、これまで積極的に「都市づくり・まちづくり」を行って来なかったことで、いろいろな用途の施設・建物が狭い地域に密集し、また、それらが狭い道路に面して混在していることに問題があるのであって、反対している住民の問題ではないと思います。経済最優先の施策と自分たちの保身ばかりに心血を注いできた国(官僚・政治家)の不作為のほかありません。

 「続きを読む」のコーナーに、国の不作為の一端を述べていますので、よろしかったらご覧ください。

 無秩序で過密な都市空間になった最大の原因は、現在の「都市計画法」や、「建築基準法」などの不備にあると考えています。 

<用途地域の課題>
 「都市計画法」では、用途地域ごとに、建てられない用途を指定していて、ほとんどが建てるべき(誘導すべき)用途を指定していません。幼稚園や保育園は、工業地域と工業専用地域以外ならどこでも建てられるのです。日本では、各用途地域のまちづくりの方針とそれに適する建物の用途(施設)が細かく定められていないため、保育園や学校などが、静かな住宅地であろうと、喧噪な商業地であろうとどこでも建設可能なのです。従って、いろいろな用途の建物(施設)が混在することになり、無秩序な都市空間となっている訳です。

<敷地の最低限度・壁面後退>
 また、建物の過密化を防止するためには、「用途(施設)ごとに、一定規模(面積)以上の敷地がないと建てられない」、「一定の距離以上境界線からセットバック(後退)しないと建築が認められない」というようにすべきだと思っています。そうすれば、隣地との摩擦も緩和され、保育園と住宅との共存も可能になると考えます。

<2項道路の問題>
 さらに、今回の保育園の場合、周辺道路の多くが幅員3m程度の狭い道路にも関わらず、4mの道路と見なして(所謂、2項道路)、建築を認める法制度にも問題があります。私は、災害時の緊急車両の通行などを考慮すると、道路は最低6m以上は必要と考えていますので、特に、保育園などの施設は、保護者の送迎車両の問題だけではなく、6m以上の道路に面していなければならないと思っています。

 今回のような問題が起きるのは、都市の構造にこそ大きな問題があるのであって、我慢云々の問題ではないと考えています。如何でしょうか!

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