2015/05/03

マンション標準管理規約改定案が波紋を広げている理由(1)

<マンション標準管理規約改定の先にあるものは?>
 
 今や、マンションは、国民の1割強の人が居住しており、大都市では次々と大規模な超高層マンションが計画されていることから将来も増えつづけていくことは疑いの余地がありません。
 同時に、現在でも全国で年間約1兆5千億円もの大金が動いていると試算されるマンション管理費および修繕積立金についても、益々上昇しつづけ、今まで以上に日本経済に大きな影響をおよぼす資金となることは間違いありません。
 
 マンションは、「区分所有法」という法律のもと、それぞれのマンションの「管理規約」という規律によって、自治が行われていると言っても過言ではありません。そして、マンション管理費および修繕積立金は、それぞれのマンションの「管理規約」によって運用さています。
 その「管理規約」は、それぞれのマンションの実情にあった「規約」を定めることになっていますが、国交省が管理組合のために、マンション管理での法的トラブルなどを回避するため、ガイドラインとして「マンション標準管理規約」を標準モデルとして定め推奨しています。従って、大半のマンションがこの標準管理規約をもとに、それぞれアレンジして「規約」を定めているのが実態です。
 そのため、この「マンション標準管理規約」の改定は、準拠することが義務付けられているわけではないですが、全国のマンションへの影響が大なのです。

 その「マンション標準管理規約」の改定が、今年6月にも実施される見通しとなりました。国交省が福井秀夫政策研究大学院大学教授を座長に、「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」を立ち上げたのは2012年1月で、9回もの検討会が開催されましたが、マンション管理組合・マンション管理士・マンション管理会社の全ての団体がこの改定案に反対を表明したため、2年半も休眠状態に陥りました。ところが、3年以上も紛糾していた検討会が突然再開され、わずか一カ月(2回の検討会)で報告書をまとめ、ゴールデンウィーク明けにはパブリックコメントを実施すると発表がありました。

 今回の改定案に全ての団体が反対した理由は、マンション管理組合の業務から「コミュニティ活動条項」を削除するという項目が含まれていたからでした。「良好なコミュニティが形成されているマンションは「暮らしやすく資産価値も高い」と言われているだけに、なぜ検討会がコミュニティ活動条項削除に固執するのか納得できないとのことでした。

 ところが、今回の「標準管理規約」の見直しは、コミュニティ活動条項が主題ではなく、大きくは2つの点が課題でした。一つは、マンション管理組合の役員に区分所有者以外の外部の専門家が就任する「第三者管理」を導入するかどうか。もう一つは、区分所有法では総会の議決権は原則として「専有面積割合」とされていますが、新たにマンションの財産価値に応じた「価値割合」を加えるかどうかということでした。

 「新たに導入される議決権の価値割合を根拠に、超高層マンション上層部の高額物件に住む富裕層に対する相続税などの課税強化を目論んでいるためでは?」との憶測も出ているようです。今回の改定案には、いろいろ裏の事情が含まれているようですので、次章以降、深掘りしてみたいと思います。

2015/05/03

マンション標準管理規約改定案が波紋を広げている理由(2)

<コミュニティ活動条項とは>

 「マンション標準管理規約」の改定が今年6月にも実施される見通しとなり、その一つとして、「コミュニティ活動条項」の削除というものが含まれています。「マンション標準管理規約」は、2004年にそれまで「中高層共同住宅標準管理規約」と呼ばれていた名称を「マンション標準管理規約」に変更して大幅な改定が行われました。この時に、日常的なマンション内トラブルの未然防止や大規模修繕工事の円滑化にプラスになるとして、管理組合の業務の一つに、「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成」という条項が加えられました。これが、「コミュニティ活動条項」です。

 ところが、マンション全体で自治会に加入し、理事長の自治会出席や管理費から自治会費の支払いを行っている管理組合は多くありますが、「管理費から自治会費を支払うことは、目的外支出で違法である。」との平成19年東京簡易裁判所の判例により、現在ではマンション全体で自治会に加入することが難しくなりました。もちろん、個人的な自治会への入会・退会は自由です。

 私たちのマンションでも、大災害が発生した場合に避難所での待遇や緊急支援物資の配給などで不安を感じると訴える人がいて、自治会への加入を検討しましたが、自治会側はマンション全体での加入を要望しており、会費は個人負担であることから強制できないため、未だ加入していません。
 
(余談ですが、私が住む地域では、防犯灯の維持管理を自治体(横浜市)ではなく自治会が行っていて、住民全員が加入していない自治会が負担していることに不合理さを感じています。市はなぜ管理しないのでしょうか?)

 それからマンションによっては、管理組合主催(費用は管理費から支出)による忘年会や餅つき大会など、マンション居住者間のコミュニティ形成のためイベントを開催しているところがあると聞きますが、これも、前述の簡易裁判所の判例より目的外支出で違法ということになるのではないかと思います。

(私たちのマンションでは、ときどき女性陣が個人的に声をかけあって「お茶会」を開催し、理事会や総会などでは言いにくいことを率直に話し会って親睦を深めています。皆さんでお茶・お菓子を持ち寄っていますので管理費からの支出はありません。)

 しかし、阪神淡路大震災・東日本大震災を経験して、「地域・居住者間コミュニティ」は円滑なマンションの維持管理などに欠かせないものと多くのマンション居住者が感じていると思います。それまでは、「秋深し隣は何をする人ぞ」の俳句のように孤独さを好み、近所付き合いが苦手という人も少なくなかったようですが、少し変わったように思います。私も、近所付き合いが苦手でマンションを選択したうちの一人でしたが、昨今は、同じマンション居住者の方との付き合いも大事にしています。

<見解の相違>

 国交省は、「管理組合がコミュニティ活動を行うことは、任意加入の自治会への強制加入につながり、管理費から自治会費を支払うことは、簡易裁判所での判例が出ていることを理由に目的外支出で違法である。」としています。つまり、管理組合のコミュニティ活動がマンション内の内紛訴訟につながるとの認識です。
 一方、、実際にマンション管理の現場で活動している管理組合や管理会社等の団体は、「管理組合のコミュニティ活動は、円滑なマンション管理や大規模修繕工事等において欠かせない業務である。」として国交省との考え方と真っ向から対立しているわけです。

 検討会では、「区分所有者間の論議や内紛、訴訟等の法的リスクが回避されるよう、自治会活動と管理業務とを分けて整理さえ講ずれば、自治会活動は、合意形成の円滑化や資産価値向上につながる効果もあり得るため、積極的に展開すべきことを、標準管理規約コメントや適正化指針で示すことが適切ではないか。」と提言していますが、その真意がよくわかりません。管理組合とは別の組織をイメージしているということでしょうか?

 現時点では、「地域・居住者間コミュニティ」が益々重要性を増している現状から判断して、マンション管理組合の業務からコミュニティ活動を削除することは時代に逆行するのではないかと思います。

 では、次章は、今回の改定の主題の一つである「第三者管理」の導入について書きます。

2015/05/03

マンション標準管理規約改定案が波紋を広げている理由(3)

<「第三者管理」導入の必要性>

 マンションでは、総会において選任された理事(区分所有者)で構成される理事会は、一部の管理業務については委任されていますが、事業(修繕・改修等)計画案や予算案などについては、それらの議案を総会にかけて決定します。国交省の「マンション標準管理規約」においてもこのことを前提として規定しています。

 しかし、高度経済成長期に大量供給されたマンションの老朽化が進行するとともに、区分所有者の高齢化や賃貸化・空室化が進んだ結果、臨時の修繕への適切な対応や計画的な大規模修繕、耐震改修あるいは建替えなど、専門性や多額の資金を要する工事が増加しています。 
 一方管理組合では、役員のなり手不足や、管理費・修繕積立金等の資金不足の問題に直面しています。

 また、新築においても、高層化・大規模化などが進み、より高度で複雑な管理が求められるとともに、マンション管理に無関心な区分所有者も増えており、老朽化マンションと同様に役員のなり手不足が問題化しています。

 このような状況を踏まえて、今回の「マンション標準管理規約」改定の主題の一つとなったのは、役員のなり手不足や専門知識不足解消のための「第三者管理」の導入についてでした。資産価値の維持向上や最大化に熱心なマンションにおいて、役員の資格要件(区分所有者)を見直し、外部の専門家(第三者)の活用に道を開くというものです。
 
 現在の標準管理規約においても、専門家の活用を可能としていますが、これは理事および区分所有者等へのアドバイザーとしての役割で、組織外の立場でしかありません。
 しかし、今回の検討では、外部の専門家を管理組合の組織内に取り込むことを可能とするもので、検討会の報告書では、外部の専門家の適格性の担保と利益相反取引の防止や業務執行のチェック体制などの整備を条件として活用を認めるとしています。
 以下に、報告書に書かれている専門家の活用パターンを整理しました。

<想定される外部専門家の活用パターン>

①理事・監事外部専門家型または理事長外部専門家型
 これは、区分所有者以外の第三者が理事会の役員に就任できるよう規約を改定し、区分所有者の専門知識不足や理事のなり手不足を補うことを目的としています。

②外部管理者理事会監督型
 区分所有法では、管理者が共用部分等の維持管理を行うと定めていますが、管理者の資格については不問で、規約において、区分所有者が就任できる理事長を区分所有法上の管理者と定めているだけです。
 そこで、規約を改定して、理事長以外の外部専門家が理事長に代わって管理者に就任できるようにし、理事会はこの外部管理者の監督(チェック)のみを行うというものです。
 つまり、管理者=理事長から、管理者=外部専門家となり、理事会に代わって外部管理者が、一部の管理業務を行うほか事業計画案や予算案などを策定し、理事会は外部管理者を監督する機関へと変貌することです。

③外部管理者総会監督型
 これは、比較的規模の小さいマンションを想定したもので、②の「外部管理者理事会監督型」をさらに推し進め、理事会を廃止し、外部管理者がそっくり理事会の役割りを担うというものですが、従来通り、総会で全て決定されることに変わりありません。

 ①よりも②、②よりも③と、より外部専門家への依存度が高くなるパターンが想定されていますが、従来通りを含めて大きく4通りの中から、それぞれのマンションに合ったものを選択しなさいということだと思います。ただし、①~③の場合は、外部専門家に委託する以上、それに見合った報酬に対する支出は覚悟しなければなりません。

 そのほか、管理者の適格性についても、規約に役員の欠格要件の規定を設けることが必要になると思います。また、管理会社が管理者となる場合など、管理組合と管理者で利益が相反する取引(契約)が発生するときの対処方法についても、規約に定めておかなければなりません。管理者が管理組合から工事を請け負う場合など、お互いの利益が相反するからです。

 次章は、「価値割合」の導入について書きます。

 
2015/05/03

マンション標準管理規約改定案が波紋を広げている理由(4)

<「価値割合」導入の先にあるものは?>

 民法では、「共有物の管理に関する事項は各共有者の持分の価格に従いその過半数で決する」とあるように、議決権割合=持分価格となっています。
 ところが、区分所有法では、「規約に別段の定めがない限り、その有する専有部分の床面積の割合による」となっており、 議決権割合=専有面積が一般的となっています。民法と区分所有法で、議決権割合の基準が異なっているのです。

 これは、従来のマンションの多くは、部屋の位置などによって財産価値(㎡単価)にあまり差がなかったため、議決権割合は専有面積に応じて決められており、専有面積もほとんど差のないマンションなどでは、1議決/戸と均一にしているところもあります。

 ところが、この10年ほどの間に超高層マンションが数多く建築されるようになり、同一マンション内でも、眺望や日照などから高層階の財産価値(㎡単価)が低層階の数倍という物件が現われてきました。そのため、今回の報告書では、「専有面積割合」や「一住戸一議決」という従来の方式では円滑な合意形成の支障になるとの配慮から、「価値割合」による議決権の導入を選択肢の一つとするよう提言しています。

 しかし、戸建て住宅が中心の自治会や町内会などのコミュニティにおける合意形成では、住宅の「面積割合」や「価値割合」で議決権に格差を付けることはありません。1人1票、1世帯1票が原則です。ご近所付き合いなどコミュニティ活動の議決権にはやはり格差は付けにくいのではないでしょうか。

 そこで、国交省が今回の「コミュニティ活動条項」の削除にこだわる背景には、この議決権の「価値割合」方式を導入しやすい環境を整えたいとの配慮が働いているためで、「コミュニティ活動条項」がなくなれば、マンションを共有財産として経済合理性に基づいて管理しやすくなると考えているからではないでしょうか。

 将来は、「価値割合」方式がある程度普及してから、「マンションの資産評価の見直し」があるのではないかと、一部の不動産に詳しい専門家は推測しています。

 何故かというと、マンションの固定資産税の算定は、敷地を住戸数で均等に割って課税する仕組みとなっているほか、相続税の資産評価についても、敷地を専有面積で割って計算されますので、超高層マンションの高層階の固定資産税や相続税は、財産価値(㎡単価)が低層階と比較して数倍高くても、低層階とあまり変わらないという優遇税制となっているからです。つまり、超高層マンション高層部の高額物件は、財産価値が高い割りに、税の対象となる資産評価額はあまりにも低過ぎるのです。

 今年1月から相続税の基礎控除額が減額され、相続税の課税強化が図られましたが、相続税対策として富裕層を中心に人気なのが超高層マンション高層部の高額物件です。相続税対策の基本は相続税の対象となる財産の資産評価額をいかに圧縮するかですが、その対策として超高層マンション高層部の購入はうってつけなのです。物件によって圧縮効果は異なりまが、平均してマンション価格の半分に、中には3分の1に圧縮できたケースもあったようです。それが超高層マンション高層部が人気の秘密です。

 しかし、1000兆円を超す赤字を抱えているこの国が、金持ち優遇とも言えるマンションの相続税の資産評価基準をいつまでもこのままにしておくわけがありません。取れるところから取る、取りやすいところから取るのが国税当局ですから、手ぐすねを引いて待っているのではと憶測する専門家が多いわけです。

 この国は、都市計画や建築行政よりも全てにおいて経済政策が優先し、国のグランドデザインなど全く無視、大企業に地域貢献の名のもと1000%を超えるボーナス容積率を与えて超高層ビルをそこかしこと建設させ、経済の活性化と税収アップのみに神経を注いでいます。もし、前述の憶測が正しければ、ボーナス容積率で建てさせた超高層マンションから、さらに相続税の上積みを図ろうとしているわけです。

 本題に戻りますが、超高層マンションは、最上層階と下層階では価格が4~5倍違う物件も珍しくないようです。当然、所得格差のある居住者が同じマンションの住民となるわけですが、合意形成を図るのには無理があるとの声を聞きます。管理費・修繕積立金の金額も基本的に「専有面積割合」なので、高所得の居住者には問題ない金額でも、低所得の居住者には負担が重く、滞納問題が生じやすい原因とも言われています。もし大規模修繕工事で追加費用が必要になったとしても合意形成は容易ではありません。

 しかし、今回の報告書には、「議決権に価値割合を導入する場合でも管理費・修繕積立金の設定は、従来通りに専有面積割合で良い」という一文が入れられていますが、大規模修繕工事の費用を「価値割合」の議決権で決めて、各住戸の負担は「専有面積割合」というやり方で、本当に円滑なマンション管理ができるのでしょうか。

 今回のマンション標準管理規約の改定が及ぼす影響は、予想以上に各方面へと広がっていくことになりそうですが、私たちマンション管理士にも、重い宿題が与えられたと感じています。

<今回のマンション標準管理規約改定の主な内容>

①外部の専門家の活用など管理組合の業務体制・運営のあり方について
②総会の議決権割合等について
③マンション管理組合と自治会との関係、コミュニティ活動について